強みを活かした会計士のキャリアチェンジとは!?

強みを活かした会計士のキャリアチェンジとは!?

楽天証券株式会社 江原正樹(えはらまさき)氏 公認会計士
【7月24日開催】若手会計士向け交流会参加予定!!

楽天証券株式会社 経営企画部長の江原正樹氏にお話を伺いました。
高校生の頃から公認会計士に憧れ、順調にキャリアアップしてきた江原氏。大手監査法人のパートナーへの道が見えた時、突如転職を決意。転職に至るまでの背景や、数あるオファーの中で楽天証券に入社を決意した理由等を率直に語って頂きました。江原氏の監査法人での積極的なチャレンジや刺激的なプロジェクト経験の様子も監査法人で活躍する若手会計士にとって、どのように強みを作っていくのか、1つのケースになるのではないでしょうか。

監査法人のパートナーに憧れて会計士を目指す 
―会計士を目指した理由を教えてください。
高校2年生の頃に、進路について父と話をする機会があり、『将来は数字に関わる仕事がしたい』と考えたのがきっかけで、色々調べていく中で公認会計士の仕事を知りました。会計士を目指すために、会計士資格合格に実績のある中央大学商学部会計学科に入学し会計士を目指すことになりました。

―学生時代、魅力を感じていた仕事内容、描いていたキャリアはありますか?
誰もが知っているような有名企業、日本経済を支えている大手企業の財務諸表にお墨付きを与える会計士の仕事は素晴らしい仕事だと思っていたので、いずれは監査法人のパートナーになりたいと思っていましたし、転職を考えるまで、ずっとそう思っていました(笑)。


監査現場で受けた衝撃とキャリアの転機 
―監査法人時代のご経験を伺っていきたいと思います。 
当時の新日本監査法人に入所して、私は金融機関と事業会社の両方の監査を担当できる部署に配属となりました。入所した2002年当時の金融業界は、不良債権処理をした後のまだまだハードな現場でしたので、寝ずに仕事をしている人が大勢いらっしゃり、かなりの衝撃を受けました。当時の私の仕事は単純作業も多く、理想と現実のギャップを感じ、『もう金融ではやっていけない』と業界に対してネガティブなイメージを持ってしまったことを覚えています。

一方で成長目覚ましいベンチャー企業の担当にもアサインされました。フロント部門が積極的に攻めて事業成長しているようなクライアントでは、バックオフィスは改善の余地があり、若手だった私でもフラットにコメントできるような明るく風通しのよい雰囲気がありました。

―監査法人時代にキャリアの転機となったことはありますか?
4年目に転機がありました。
大手金融機関のニューヨーク上場プロジェクトがあり、チームリーダーへの打診がありました。本プロジェクトを担当するのであれば注力しなければならない仕事でしたので、金融機関担当か事業会社担当か、どちらか一方を選ばなければならなくなりました。正直迷いましたね(笑)

事業会社の監査を続けていきたいなぁという思いもありましたが、法人の最重要プロジェクトにチームリーダーとして関われることは、中々ありません。このようなビッグプロジェクトにチャレンジできることやチーム運営の経験も必ず今後の自分の糧になると思いましたので、受けることにしました。ここから私のキャリアは金融業界に特化をしていきます。

―金融業界に強みを持つキャリアをどのように積んでこられたか、詳細を教えてください。
ニューヨーク上場プロジェクトでは、証券会社を中心に内部統制や財務数値の整備をするプロジェクトのリーダーを担当し、無事ニューヨーク上場を成功させることに貢献ができました。大変な局面も沢山ありましたが、とてもやりがいがあり、貴重な体験ができました。

ニューヨーク上場プロジェクト後に、もう1つよい経験ができました。大手証券会社の組織再編の対応です。大手証券会社の統括主査を任されたタイミングで他の大手証券会社との組織再編があり、そこにも関わることができました。このプロジェクトでは100人規模のチームで全体を統括する立場になり、クライアントの財務担当の方だけでなく、経営企画や国際企画の方とも一緒に仕事をする機会が増えていきました。振り返ってみるとこの時から経営企画の仕事に興味を持ち始めていたと思います。

マネージャーになってからは、監査案件以外の営業活動にも力を入れてコンサル案件を獲得していきながら、少しずつ次へのチャレンジを探し始めていました。会計、金融分野ではある程度経験を積めたと思えていたので、次はグローバルに活躍していきたいと思うようになり、2年程必死で英語力を身に付け、ロンドン駐在のポジションを勝ち取りました。

―ロンドンでの仕事内容もお聞かせください。

赴任先のロンドンでは監査の仕事は限定的な対応で、日系の金融機関を中心にコンサルの提案をしていました。監査の売上は伸ばしにくいので、コンサル案件を積み上げてファームの日系お客様向け売上を伸ばしていこうというミッションです。日本でも積極的に営業活動をしていたので、そこを評価してもらい、このポジションを任されたのかもしれませんね。

駐在期間の前半は、金融規制関連の案件を中心に提案をしていましたが、後半は『ブレグジット(英国のEU離脱)』への対応が業界全体の課題となり、コンサルのネタは豊富にありました。ブレグジット対応では、どの金融機関も欧州のガバナンス再構築について課題がありました。例えば、欧州の主要拠点をロンドンからフランクフルトやオランダに移すのか、厳しい金融規制の下で主要拠点を中心に他の欧州拠点をどのように運営するのか、どのように欧州全体のコスト管理をすべきか、といったように多くの課題がありました。ehara1.png

監査法人のパートナーか転職か?楽天証券選択の理由

―目標にされていた"監査法人のパートナー"が近づいていたように思いますが、転職を考えた背景を教えてください。
転職を考え始めたのは、2017年12月頃です。帰国の打診があり、当初の駐在予定期間から既に1年延長していましたので、監査法人に戻り、パートナーを目指すべく準備をする必要がありました。その時、改めて自分のキャリアと向き合う機会があり「今の私に監査ができるのだろうか?やりたいのだろうか?」と考えました。

私が日本で監査をしている時は、監査業界全体がコンサルに力を入れていこうという風土になりつつあり、私も積極的に営業活動をしていましたし、ロンドンにいる間も、監査ではなくコンサルをメインに行っており、長く監査の現場から離れていました。その一方で、私がロンドンにいる間に、日本国内で大きな会計不正問題等が発生した影響もあり、今度は監査の品質を向上しようという風土に変わっていたのです。

また、「自分がやりたい仕事」という点で、企画の仕事にも興味がありました。私はこれまで企業の外から監査やコンサルをやってきたので、実際に企業内で企画の仕事に取り組むことができたら面白いだろうなという思いもあり、転職活動を始めました。

―転職活動ではどのような選択肢があり、楽天証券への入社を決意したのでしょうか?

転職活動をする中で、楽天証券の経営企画ポジション以外からもいくつかオファーを頂き、色々と考えました。

オファーを頂いた各社と色々な話をし、これまでの私の経験が最大限に活かして貢献できるのはどこか、これまで以上に私自身も成長できるのはどこかを真剣に考えました。
当時ロンドンでは、フィンテックがどんどん進んでおり、日本もいずれその流れが来るだろうと思っていました。また、監査法人時代から証券会社を担当していたこともあり、ミッションが明確にイメージでき、かつ、自分のキャリアも活かし貢献できるのは、楽天証券ではないか・・・と、考えるようになりました。
最終的に、楽天証券との面談で楠社長と当時の経営企画部長からもらった「金融業界を変えていこう!経営企画部がそれをハンドリングしていこう!」という熱いメッセージに共感し、楽天証券への入社を決心しました。

楽天グループで描く会計士キャリアの可能性 
―初めての転職となりますが、楽天証券入社後に感じたことを率直に教えてください。
楽天証券は、監査法人時代に担当していた対面型の大手証券会社とはビジネスモデルが全く異なりました。楽天グループは、革新的なインターネット及びフィンテックサービスにより、個人や企業をエンパワーメントしていますが、その一環で、楽天証券も個人を中心に最先端のフィンテックサービスを提供しています。楽天証券の顧客は急速に増えており、年齢層も非常に若く、金融業界を変えていけるイメージを実感できるようになりました。

楽天グループの行動指針として大切にしている考え方である「楽天主義」の中の1つ「成功のコンセプト」に「スピード!!スピード!!スピード!!」というのがあるのですが、びっくりするほどスピードが速いです(笑)。

大手金融機関の意思決定プロセスは何段階も階層があり時間もかかりますが、楽天グループではものすごいスピードで意思決定されます。そのスピード感についていくのが最初は大変でした。

―まだ楽天証券に入社されて約1年ではありますが、今後チャレンジしていきたいことはありますか?

楽天のユーザーは1億を超えており、これから更に増やしていこうとしています。この1億超の基盤とグループのプラットフォームを使って色々な展開をしていきたいですね。

楽天の強みの一つとして外せないのは、やはりロイヤリティサービスである「楽天スーパーポイント」だと思います。楽天証券では、「楽天スーパーポイント」を使って投資ができます。また、昨年からは投信積立の代金を「楽天カード」のクレジット払いで決済できるサービスも開始し、さらにグループの強みをお客様に還元できるサービスを提供開始しました。これらのサービスを開始して以来、新規口座開設数が急増し、現在、月間、年間ともに新規口座獲得数は業界1位となっています。

我々はインターネット専業のオンライン証券なのでメインのお客様は若い方の割合が高いのですが、今後は、ネットをあまり利用しないお客様に対して、対面での接点も大事にしなくてはならないと思っており、IFAビジネスやアセットビジネスにも力を入れています。
そのためにも、日本の金融当局とも交渉しながら、どんどんフィンテックを進めていかなくてはいけないと思っています。私はロンドン駐在経験で欧州のフィンテックの最先端の情報に触れていたので、日本に取り込んでいく際にはどんどん手を打っていきたいですね。

一方で、新しい取り組みには多大なコストがかかってきてしまうのも事実ですが、ここは、私のこれまでの経験を最大限活かせる部分だと考えています。前述のような新しい取り組みや施策を実行していくと同時に、会計士としての知見も活かし、財務数値も適切に管理し、しっかりマネージメントして基盤を作っていきたいと考えています。

―長期的な視点でチャレンジしてみたいことはありますか?

楽天グループでは会長が毎週、今考えていることを全社員に向けてアナウンスしています。トップが何を考えていて社員には何をして欲しいのかを周知するのはとても大切な事だと実感しています。

経営と意思疎通が取れる環境の中で、まずは楽天証券でCFOのような立場で財務数値を把握し、経営としてのメッセージを適時適切に発信出来る立場になりたいというのが目の前の目標です。その先は楽天グループというもっと広い領域で様々な機会がありますので、グループという大きな枠組みの中で貢献とキャリアアップが両立していけたら面白いと思っています。

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若手会計士へのキャリアアドバイス
―20代・30代の若手会計士にむけてキャリアアドバイスをお願いします。

財務数値を取扱う部署のみならず、経営陣や経営に近い企画部門とコミュニケーションを積極的に取り、若いうちからビジネス方針について語る機会が多くできると良い経験が積めると思います。会社の監査や財務分析のため、ビジネスがどういう方向性に向かっていくかということを多面的に把握することはとても重要で、その上でビジネスリスクをどうコントロールすべきかなどを意識した仕事をすると、会計士としてより深く学べることは沢山あると思います。

また、私自身が監査法人時代にもっとやっておけばよかったなと思うことは、管理会計をもう少し意識したコミュニケーションをしていたら・・・という点です。この部分は、楽天証券に転職した今、イチから勉強しているようなところもあります(笑)。その意味では、監査法人ではなく、企業内会計士として財務会計や管理会計をバランスよくスキルアップするのもよい経験だと思いますし、監査法人の中でキャリアを築く際にも、管理会計まで意識したコミュニケーションをすると、良い監査ができ、会計士としてのキャリアもより磨かれるようになると思います。

監査法人で長く働きたいという方を含め、やはり海外へのチャレンジはお勧めします。
海外の監査に関して言えば、リスクアプローチによりフォーカスした監査を実施していると感じました。海外の監査パートナーは、リスク感応度が高く、リスクの高い領域にはどっぷり時間を使い、監査報告の直前であっても「ここは違う!」「ここは納得がいかない!」とはっきり指摘しています。そういう違いを見るだけでも良い経験になると思います。
企業内会計士も増え、会計士のキャリアプランは豊富になってきています。是非、色々なタイプの会計士の方と話をして、どういうキャリアプランがあるのか、厳しい現実も含めて情報収集するといいと思います。今思うと私がロンドンに駐在する前は、そのコミュニケーションの機会が少なかったように感じます。監査法人でも転職した先でも、これからのキャリアは自分で築けるものですので、ぜひ、行動を起こしてみてください。

―貴重なアドバイスありがとうございました!

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江原正樹(えはらまさき)
中央大学卒業後、公認会計士二次試験合格
EY新日本有限責任監査法人に入所し、大手金融機関の監査、ニューヨーク上場プロジェクト、証券会社の組織再編プロジェクト等を担当。Ernst & Young LLP(ロンドン)に4年間出向し金融業界向けのコンサルティングを担当。
2018年楽天証券株式会社に参画。現在コーポレート本部経営企画部長に就任し、楽天証券の事業拡大と新たなフィンテック、業界の変革に取り組んでいる。



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